Wake Up, Hotels!

 ビジネスホテルが好きです。一泊5000円くらい。ごく普通の。

 温泉付きの旅館や豪華なタワーホテルも勿論好きなのですが、あのベッドと机だけで8割を占める、寝泊まりするための最大公約数を狙ったような空間にいると、不思議な非日常さと自由を感じられるのです。

 高校を卒業して家を出るまで自分の部屋というものを持てなかったからかもしれません。フロントで、カードだったり、長細いアクリルキーホルダーがついた鍵だったりを受け取って、エレベーターに乗る。目的の扉を探し、少しの緊迫感に駆られながら鍵を開けて部屋に飛び込みすぐさまチェーンをかける。するとそこは僕の城になる。靴を脱いで、狭い机に乗ったルームサービスの紙をどけて、コンビニで買ったカップ麺やお酒、ご当地のつまみなんかを並べたら完成。どこのメーカーかもわからないような小っちゃい電気ポットでお湯を沸かし、テレビを点けて、観るでもなくぼーっとする時間にどうしようもなく生を感じます。

 WUGちゃんと出会って、24年間ほとんど関東を出たことがなかった僕が、東北をはじめ本当に多くの場所に初めて足を踏み入れました。遠征で宿泊したホテルの数々の記憶は、WUGちゃんと過ごした楽しい思い出とともにあります。

 というわけで、2022年WUG Advent Calendarの初日に、WUGと歩んだ20代半ばの僕の、ちょっとした冒険の懐古にお付き合いいただけたらと思います。

 

・レイフォントダウンタウンホテル上海(上海徐匯瑞峰酒店)

 初遠征初海外初一人旅。初めて尽くしの3泊4日。当時名ばかり大学院生で時間だけはあったこともありますが、結構思い切りました。それくらい良かったんです、当時のWake Up, Gils!は。4thライブ、東京の大千秋楽に参加した僕の一番の気持ちは「もう一回4thツアーに参加したい!」でした。むしろ今でも参加したい。4thツアーもう1回参加したくない?

 来年もツアーあるかなあ、ないかもなあ、ツアーがあるのは当たり前じゃないしなあ、、なんて思っていた矢先に発表された上海公演。今振り返っても本当に色々なことがあった4日間でした。寒空の下、物販で財布を空にして呆然としていた僕に、喫茶店で温かいコーヒーをご馳走してくれて、初対面なのに二時間くらいWUGの話で盛り上がってくれたワグナーに今でも感謝しています。

 そんな上海遠征で3泊したのがこのホテル。ノウハウが全くなかったのでHISの出来合のツアーに申し込むという初心者ムーブ。危ない橋はわたらない主義なので。結果的にこの選択が道中の沢山の戸惑いと焦りを生むことになるのですが。。

 上海のホテルはここしか知らないので、他と比較したり国を包括した特徴をあげることはできないのですが、綺麗で普通に良いホテルでした。朝食を除いて。フロントも礼儀正しく、確か最初の2泊は予約していたクラスの部屋が空かなくてワンランク上の部屋をあてがってもらいました。日本語は通じなかったはずなので、その会話を一体どうやってやったのか全く思い出せませんが。

 朝食はビュッフェ形式。白ご飯はなく主食はチャーハンとパンだけだったような?うろ覚え。唐揚げっぽいのがあって、食べてみたら滅茶苦茶固く、なんだこれとひっくり返したら鶏の頭そのものでした。全体的に冷めてて不味く、次の日からはファミマでパン買って食べました。

 

デニーズ郡山東口店

 東北ろっけんソロイベントツアー。青春十八きっぷ。金欠。

 あっという間に終わった学生最後の一ヶ月、間違いなく人生で一番楽しかった時間です。本当にお金がなく、卒業旅行で泊まったホテルが一泊2000円とかだった気がします。

 そんな中、東北を巡ったソロイベツアー。郡山駅西口に降り立ち、クラッチバッグを片手に颯爽と歩く若者とそびえ立つヨドバシカメラを見て「新宿じゃん!」って思ったのをよく覚えています。ふるさとの温もりを唯一感じなかった土地、郡山。打ち上げの居酒屋を出て、始発までの時間をドリンクバーだけで過ごしました。学生だねえ。ビルが並ぶ西口とは打って変わって、東側は片田舎な雰囲気で、吹く風は強かったです。

 帰りの鈍行列車で死んだように寝ました。

 

ホテルサンライズイン (岸和田)

 HOMEツアー最初の宿泊。昼公演と夜公演の間にチェックインして一息つくのが、やがて恒例行事となりました。だんじり祭りを横目に見たのを覚えています。

 朝食はこじんまりとしたスペースでした。朝向かうと既に一組、ワグナーらしき人同士が談笑していました。今知り合った同士らしく、推しの確認などから探り探りWUG談義をしていて微笑ましかったです。いいぞワグナー、もっとやれ。

 

・第2サンライズホテル (熊本)

 熊本。路面電車、風俗街と鳥の糞。

 会場周辺は大きなアーケード街があり、会場に向かう途中は「仙台みたいだなあ」とちょっとワクワクしたのも束の間、歩道橋を渡ろうとすると塗装?というほど鳥の糞で覆われていたのが印象深かったです。

 ラーメン・馬刺し・お酒etc. 熊本はとにかく口にするもの何もかもが美味しかったです。ライブの打ち上げ後、ホテルまでフラフラ歩いてベッドにダイブする瞬間の幸福に勝るものなどありません。

 

・ホテル ニューナガノ

 雪。雪。見渡す限りの雪。

 前泊して正解だったなあと、ホテルで窓の向こうを眺めたような気がします。この道中一番印象に残っているのは、長野駅Suicaに対応していなかったことかもしれません。こんなデカい駅でそんなことあるんですね。

 天候も天候だったので基本ホテルに籠城しつつ、お腹がすいたら駅前のラーメン屋さんで味噌ラーメンを食べ、コンビニで色々買い込みまたすぐホテルに引きこもりました。そういえば、帰りの電車で食べたソースカツ弁当もキャベツシャキシャキでソース染みて美味しかったです。

 あの日、半径1km以内でWUGちゃんが雪合戦していた空間にいられた幸せを噛み締め、今日も眠ろう。

 

東横イン 仙台駅西口中央

 毎度お馴染み俺達の東横イン。宿については改めて特に語ることなし。仙台公演初日の打ち上げでほろ酔ったまま綺麗なベッドにダイブする瞬間の幸福、久しく味わっていません。

 今回狭い机の上に並べられたのは熊谷屋さんのサメだったと思います。美味しく頂きました。

 

・ロイヤルパインズホテル浦和

 みんなで来られたSSA。終わった直後、他のワグナーさんは、皆何を想いましたか?

 7色の光で埋め尽くされた会場、7Girls Warの後ろで流れていた4thライブの映像、運命の女神のインスト、鍵を探さないSHIFT、みんなと食事に行かないかもしれないかやたん、予定調和のトリプルアンコール。

 終演アナウンスでとぼとぼとお見送り会の列に向かって数分、アドレナリンが溶けてなくなり剝き出しになった疲労と眠気が僕を襲いました。SSA公演の一番の感想は「本当に本当に疲れた」でした。夜行バスが大宮駅に着いてからその時まで、自分が思っていたよりもずっと気を張っていたんだなと気付かされました。

 ぼーっとした頭で考えたのは、このWUG史上最高を刻んだ心と体が、次目覚めるのが本来寝床でない打ち上げの席とかだったら嫌だな、ということでした。WUGだった最後の記憶を、WUGのいない最初の一日を、明るく心地の良い朝を目覚めたい。

 ということで大行列に並びながら、打ち上げの断りの連絡を入れ、会場周辺の宿泊地を探しました。Googleに一番にレコメンドされたのが、普段だったら絶対泊まらないような「格」のホテルでしたが、今日を惜しんでどうしようと即決しました。

 浦和駅で自分の中の野生が「何か食わねば」と訴え、とはいえ店を探す余裕などなく、全然そばの気分じゃなかったけど通り道にあった富士そばに入り、カレーを2分で平らげました。

 ホテルはエントランスから格式の高さを感じられ、ラウンジでイケてるサラリーマンが外国人相手に英語で談笑していたのを覚えています。

 ”予約していたコ口です”

 フロントで発そうとしたその言葉が、声が枯れていて全く出なかった時、俺は今日、全力を出せたんだ、良かった、、と悟りました。

 部屋に入り、スマホを充電し、服を脱ぎ捨て風呂に入りました。シャンプーとかもボトルから豪華。バスタブも広くて最高でしたね。

 髪を乾かし、テーブルの上にウォークマンと当時愛用していた緑のヘッドホンを置き、眠りました。

 目覚め、最初にWUG組曲を目をつむり、聴く。この曲たちはWUGがいない世界のために創られた曲だと思っていたので。

 チェックアウトは12時まででしたが、帰りの新幹線の予約時間から8時くらいにはホテルを発ちました。朝ごはんは松屋かなあなんて考えながら、扉を閉めました。充電器を置き去りにしたまま。。。

 

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おわりに

 WUGちゃんが解散してからもうすぐ4年くらいでしょうか。その期間によるものだけでなく、そもそもライブ中に7人が見せてくれた眩しい時間は、焼き付いて離れない!と言いたいところだけども、どうにも上手に思い出せないなあというのが本音です。

 ですが、会場までの道地だったり、食べたご飯だったり、ライブ前後にオタクと話したことだったり。WUGちゃんのライブがあったことで見せてくれた、そういう副次的な景色は、今でも色濃く蘇ります。夜寝る前にそうやって記憶をなぞることで、WUGちゃんが今でも自分の心の中で生き続けていることを感じられます。

 こんなご時世になったことも相まって、最近めっきりWUGについて話をする機会もなかったので、こうやってワグナーが集まってあれこれ書ける機会はありがたいですね。

 今年もあと少し、がんばっぺ。